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『アキ全然お見舞い来てくれないんだもんなー。つまんない』
『恭弥が毎日行ってるだろ』
『うん。毎日美味しい差し入れ持ってきてくれるの。優しい彼氏で感動しちゃう』
『ノロケか?』
『えへへ、バレた?』
弾む声色が幸せだと叫んでいるように思えた。
胸に棘が刺さっているみたいだ。
同じ傷を抱えた俺達は三人一緒に育ってきたはずなのに。
どんなに悲しみや喜びを共有したって、求めていたものが根本的に違っていた。
長年気持ちが変わらなかった恭弥は稀なタイプの人間で、大抵は簡単に変わってしまう。
結論、やっぱり永遠は存在しないんだ。
『安上がりだな』
『ん?』
『俺がダメなら恭弥か。本当は誰でも良かったんだろ?』
『何言ってるの?私は…』
『言い訳は聞きたくない。だから恋愛なんか御免なんだよ。結局、沙耶もあの女と一緒だな』
自分でも説明できない苛つく気持ちが口から飛び出して制御不能だった。
沙耶を拒絶したのは俺。
今まで通りを望んだのも俺。
沙耶は何一つ悪くないのに、どこか母親と重ねてしまって酷い言葉を浴びせてしまった。
『何それ…もういい!アキのバカ!』
電話越しに聞こえた怒鳴り声でハッと冷静になる。
耳元で響くツー、ツー、という機械音で通話が終了したのだと気付いた。
沙耶が怒って電話を切るのも無理はない。
前を向いて幸せを手に入れた沙耶を侮辱した。
100%俺が悪い。
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