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明るい沙耶のことだから笑って許してくれるかもしれない。
そんな都合のいい思考を蹴散らすように次の日から連絡が途絶えてしまった。
傷付けた手前こちらから連絡することもできなくて、時間だけが無情に過ぎていく。
『この部屋とも明日でお別れかー。やっぱり寂しいね』
恭弥が荷物の整理をする手を止めてふと呟けば、同調するように相槌を打つ。
まだ寒さが残る三月の上旬。
翌日に高校の卒業式を控えた俺達は退所準備に追われていた。
施設を出たあとは大学の近くにある小さなアパートで一人暮らしが始まる。
希望していた大学に進学が決まり、新生活への期待は高まるばかりだ。
騒がしいのは苦手。やっとこの大所帯から解放されてせいせいする。
不安?そんなの全然ない。
…そう思わなきゃ、やってられない。
孤独に押し潰されてしまいそうだった。
『アキ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど』
『…なに?』
妙に改まった声と真剣な顔。
いつもと違う恭弥の雰囲気で相当大事な話だと察した。
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