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『卒業して落ち着いたら沙耶と籍を入れようと思ってる』
『籍をって…結婚するってことか?』
『うん。沙耶と家族になりたい。沙耶の夢を二人で叶えたい。…って、この前プロポーズしたら笑ってOKしてくれた』
早く結婚して本物の家族が欲しいと夢を語っていた日の沙耶の笑顔を思い出した。
辛くても一を足せば幸せに変わる。
つまり、大切だと思えるものが一つでも見つかればどんな困難も乗り越えることができる。
そう教えてくれたのは須田さんだ。
自分の夢が大切な誰かと合わさって一つになる。人はそれを幸せと呼ぶのかもしれないけど…
『分かってるのか?沙耶は…』
『分かってるよ。分かってるからこそ、だよ。素敵な恋をして愛する人と結婚する。贅沢でもなんでもない、ごく平凡な夢だと思わない?』
さっきまでとは打って変わり、同調することも相槌を打つこともできなかった。
めでたい話なのに祝福の言葉一つ出てこない。
恭弥は怖くないのだろうか。
分かりきったことを聞くのも野暮な気がして、何も言葉を返せないまま施設で過ごす最後の日を終えた。
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