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大学に通うようになってからは生活が一変した。
必死に勉強するのはもちろんのこと、バイトを何個も掛け持ちして時間の感覚がなくなるほど多忙な毎日を送っていたのは自分の意思だ。
アパートに一人でいると、どうしても楽しかった日々の思い出が浮かんでしまう。
だから余計なことを考えたくなくて、敢えて忙しい生活を選んだ。
施設を出て半年。
久し振りに恭弥から連絡が入った。
内容は来月入籍するという報告と、結婚式ができない代わりに病院の関係者達が開いてくれるらしいささやかなパーティーへの招待だった。
こうやってたまに掛かってくる電話で近況を知るくらいで、沙耶とはすっかり疎遠になっていた俺の答えは決まっている。
『アキも来てね』
そう言われ、
『忙しいから無理』
冷たく言い放って電話を切った。
“おめでとう”なんて軽々しく言えるわけない。
俺達の関係は完全に壊れてしまった。
いや、壊したのは俺自身だ。
もう二度と昔みたいに三人で笑い合うことはできなくても、二人が幸せならそれでいい。
頭ではそう思うのに心が虚しくて虚しくて、いつも何かを求めていた。
形のない、何かを。
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