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充実しているとは言い難い日々を重ね、訪れた結婚パーティーの日。
何日か前に須田さんからも連絡があり、行くつもりはないと伝えたはずなのに朝から着信音が鳴り止まない。
電話に出たところで参加しろと口うるさく言われるのは分かりきっていた。
うんざりしながら忙しなく震える携帯を手に取ると、すぐに電源を落として適当に放った。
その日は休日。
特に予定もなくて、朝方までレポートを書いていたから眠たくて仕方ない。
だからベッドに横たわって眠りに就くまで、そう時間は掛からなかったと思う。
深い眠りに落ちていく中、見えた景色がやけにリアルだったのを覚えている。
辺り一面には海が広がり、沙耶が砂浜に変な絵を描いていた。恭弥は優しい眼差しで沙耶を見つめている。
ああ…そうか。これは夢だ。
楽しくて、心地よくて、時間が止まってしまえばいいと非現実的なことを願ったあの日の夢。
『私、そろそろ行かなきゃ』
実際にはなかった場面が追加されている辺り、結局夢は夢でしかないのだろう。
スッと立ち上がった沙耶の顔を隠すように太陽の光が反射していた。
多分、笑ってるんだろうけど…
あんなに長い間一緒にいたのに、沙耶の笑顔を全く思い出せない。
忘れたくない。
純粋な笑顔を、無邪気な明るさを。
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