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何故か夢の中の俺は焦っていた。
海に向かって足を進めていく沙耶に手を伸ばし、追いかけ続けている。
行くな、行くな、何度もそう言いながら。
『こっちに来ちゃダメ。私はクラゲになるんだよ。綺麗さっぱり消えるの。だから私のこと忘れてもいいよ』
小さな背中から聞こえたその言葉が何を意味していたのかなんて、この時の俺には分かるはずもない。
ただ、伸ばした手が届かない歯痒さと、もどかしさでいっぱいだった。
『ーーーアキ、バイバイ…』
遥か遠くの方から聞こえた声。
その瞬間、パチン。
微かに音がした。
必死に追いついて漸く届きそうになったとき、目の前の沙耶が水風船のように弾けたのだ。
ゆっくり、ゆっくり、水飛沫を上げて、
ゆっくり、ゆっくり、海に溶けていく。
静かな海にはもう何も見えなくて、波がゆらゆら揺れているだけ。
そんな不思議な夢だった。
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