愛、葬る

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「それでは、由希子さんの昇進を祝って。カンパーイ!」 菫の掛け声を合図に、杯を上げる。カツン、と小さな音を立てて重なった三つのグラスが新たな門出を祝福しているみたいだった。 春は出逢いと別れの季節。 先月、チーフを務めていた山田さんがめでたく寿退社をして、新しいチーフには由希子さんが任命された。 今年、受付に配属された新入社員は二名。 先日無事に歓送迎会を終え、これから新体制での業務がスタートすることになる。 不安、責任、重圧、プレッシャー… 色んなものに押し潰され、いつもの明るさを失っていた由希子さんを励まそうと菫と一緒に企画した今回の昇進祝いは名ばかりのもので、実際はただの飲み会だったりするのだけど。 とにかく、なんでもいいから由希子さんが元気になれる口実が欲しかったのだ。 「二人ともありがとう」 シャンパンを飲みながら、由希子さんは嬉しそうに笑う。 由希子さんの笑顔を見たのは久しぶりで、良かった、とホッとした。
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