愛、葬る

5/20
前へ
/421ページ
次へ
あの日、合コンに参加しなければ彼と出逢うことはなかった。 こんなにも辛く、苦しい気持ちを抱えることもなかった。 それでも私は後悔していない。 彼を好きになったおかげで前よりほんの少しだけ変われたと思うから。 「音羽、聞いてる?」 フォークに巻きつけたペスカトーレを口に運ぶことなく上の空だった私は、菫の声にハッとした。 メニューを開く由希子さんも不思議そうな顔をして、首を傾げながらこちらを見つめている。 「いけない…ボーッとしてた」 「もう、しっかりしなよ」 「ごめんごめん。それでなんだっけ?」 「そろそろドルチェ頼もうかって言ったの」 このお店はコース料理の場合、ドルチェは全9種類の中から日替わりと決まっているのだけど、今日は各自好きなものを頼んだからドルチェも自由に選ぶことができる。 定番のティラミスを筆頭に、パンナコッタ、ジェラート、グラニータ、マチェドニア、アフォガード、ズコット、ビニェ、クロスタータと、イタリアを代表するデザートばかりだ。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4295人が本棚に入れています
本棚に追加