愛、葬る

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何事もなかったかのように笑顔を作ってテーブルに戻ると、既に机上にはドルチェが置かれていた。 菫と由希子さんは私を待ってくれていたらしい。私が着席してからスイーツを食べ始めた。 私も無心でスプーンを動かしてみるものの、このお店の何処かに彼がいると思うと落ち着かない。 甘いはずのパンナコッタの味さえ感じない。 十代の頃ならば、単純にこの偶然を運命だと信じて心弾ませていたことだろう。 けれど愛には美しさだけではなく、棘があり、毒があり、痛みもある。 そんな現実を知っている今、運命だなんて夢みたいな事は言ってられないのだ。 お酒が入ってる分、感情的になってチャンスだと騒がれたり、背中を押されても困るから… 柴崎さんと会ったこと、今は黙っておこう。
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