愛、縋る

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「そろそろ帰る?」 「…え?」 静まり返った部屋には、聞き慣れた声が響いた。 真っ白なシーツは乱れ、纏っていた洋服達も下着も全てそこら中に乱雑に散らばっている。 これだけで、ついさっきまで行われていた情事が安易に想像できるだろう。 けれど私達にとってそれは、決して甘い時間なんかではない。 「分かるでしょ?」 「うん…すぐ帰るよ」 いつだってそう。 事が終われば一息つく間も与えてはくれず、さっさと私を家から追い出そうとするんだ。 急かされるようにベッドから体を起こせば、ギシリとスプリングが軋む音がして… そんな些細な音でさえ今は耳障りでしょうがなかった。
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