愛、縋る

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床に散らばった服を掻き集め、袖を通していく。この時の私の心情は“無”でしかない。 今の私がやるべきこと。それは、さっさと着替えを済ませてこの場から去る。 ただ、それだけ。 「音羽(おとは)、」 「ん?」 「ちょっと待って」 「なに?」 足早に部屋を出て、玄関のドアを開けようとすれば、引き止めるようにガシッと強く腕を掴まれた。 散々急かしておいて、いざ帰るとなるといつもこれ。 「大丈夫そうな日、連絡するから」 「…分かった」 突き放すくせに、別れ際には“また”会えることを匂わせて優しく笑う。 これも、いつものことでもう慣れた。 「じゃ、気をつけてね、音羽」 「うん。バイバイ、悠真(ゆうま)」 答えるように悠真がヒラヒラと手を振ると、アッシュベージュの髪も一緒に揺れる。 それが視界に入ってくるのが嫌で嫌で… すぐに背を向けて、勢いよく玄関から飛び出した。 ____バカみたいだ、こんなの。
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