愛、揺れる

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「無理よ。そんなに待てない。次行こ、次」 「えー…」 さっきからこんなやり取りの末、ファミレス巡りをしているのだ。最初のお店で大人しく待っていれば今頃お酒にありつけたかもしれないのに。 「ボーッと待ってるだけなんて時間の無駄じゃない」 そう言い放つ菫は、どんなに話題になっていても行列が出来るようなお店には行きたがらない。 それにテーマパークは大好きだけど、アトラクションの待ち時間は死ぬほど嫌いって言ってたこともあったっけ。 菫ってなかなか頑固なとこあるし…仕方ない。 次を探すしかなさそうだ。 とはいえ私の知ってる限り近場にこれ以上ファミレスはないから、ここは妥協して居酒屋にするかバーにするか。 考えながら他のお店を探すべく適当に足を進めていると、見覚えのある歓楽街に出た。向かって右側にはあの有名イタリアンのお店が見える。 ということは、だ。 「あれ?たしか、ここ真っ直ぐ行ったらあのバーだよね?」 「そう、だよね…」 週末ほどの賑わいはない街で、そう小さく返す。 嫌でも頭に浮かんでくるのは、あの日の光景だった。
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