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あの日以来、菫は悠真の話題を出さなくなった。
それだけではなく、逃げるようにバーを後にした私のその後の行動を聞いてくることもない。
仕事中や休憩中だと他の人もいるから、という理由で神堂さんと一夜を共にしたことも未だに話せていなくてずっと心に引っかかっていた。
この通りにはバーも居酒屋もたくさんある。それこそ選り取り見取り、選びたい放題。
だから菫にも、ここら辺でお店を決めようと言ってしまえば手っ取り早いんだけど…
また運悪く鉢合わせたりしないだろうか。と、そんな不安がよぎって言い出すことができないのだ。
「ねぇ、音羽。場所変えよっか」
「え?でもここお店たくさん…」
「いいから行くよ」
私の言葉を遮った菫はクルッと進行方向を変えると、歓楽街から離れるように早足でスタスタ歩く。
突然の行動の意味は、きっと私の不安を察したからだろう。
「うーん、どっかいいお店ないかなぁ…ストレスが吹っ飛ぶような癒し系のお店、っと」
検索しているのか菫はスマホ片手にブツブツ言いながら歩いてる。
癒し系のお店…
そういえば、恭弥さんのバーってこの近くだ。
菫だって早くお酒を飲みたいだろうに、私に気を使ってくれたんだもん。
「あ…あのね、菫。この近くにいいお店があるよ」
「え、ほんと!?」
「うん。静かで癒し系で…すごく素敵なお店」
「なにそれ最高。よーし、そこ行こ!」
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