愛、揺れる

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菫をバーまで案内すべく裏通りを歩く私の顔には、不安の色が漂っていた。 私はそこまで方向音痴ではないと思うのだけど… なんせ目的地は人通りの少ない閑散とした場所。 それに、あの日は色々ありすぎて記憶も有耶無耶でどの道を通ったのかなんてハッキリ覚えていない。 だからこの近く、というのは分かっても目印になりそうな建物やコンビニがない道では手がかりを掴むこともできず。 さっきから同じようなところをグルグル回っては、「うーん…」と首を捻っているのだ。 「こんな廃れた通りにバーなんてあるの?」 「うん、多分この辺だったはずなんだけど…」 大通りから幾分外れているだけのこの通りに軒を連ねるお店は、もう営業していないような古い店舗ばかり。 見渡す限りどこもシャッターが閉まっていて、菫が指摘するようにここは廃れた通りである。
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