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 本日も暑いらしい。先ほど通りすがった女女子高生たちが最高気温は36度を超えると不満を漏らしていた。 「36度ってどんな感じの暑さなんだろ?タケは覚えてる?」 俺と同じく女子高生の話を聞いていたシホが首をかしげる。俺は首を横に振った。 「アタシもおぼえてないなあ、どんな暑さなんだろう。どれくらいしんどいんだべか」 「ミユキにきいてみれば分かんじゃねえの」 俺はというと、ぼんやり見える夏の青空と広い広い田んぼを眺めて夏を感じていた。懐かしいような、懐かしくないような。毎年見ているから懐かしいと感じるのは当たり前なのだが。シホは名案だというようにミユキの元へ飛んで行った。ミユキは眠っていたらしく、いやいやな態度をとりながらシホに手を引かれ俺の近くまでやってきた。 「ああ、今年も田中さんちの米たくさんとれそうだねえ」 ミユキは俺の見ていた夏の景色を見てほほ笑んだ。 「でもここのオバサン最近見ないよね」 シホが家からでてきたオジサンを見ながら言う。その姿は少しだけ寂しそうだ。 「なんでだべね。亡くなってはいないみたいだけど」 「病気とかで体悪くしてるんじゃない?もう結構なとしだったもの」 そっかあ、とシホはしょんぼりとした。…あ、そうそう、ミユキにいいたかったことはこれじゃない。 「そういえば、ミユキって36度の暑さって覚えてる?」 俺がシホの代わりに問う。ふわふわとした風で草木が揺れたのが視線でわかった。シホは思い出したのか、すぐに元気になりぐいぐいミユキにせめた。 「アタシは春の暖かさは覚えてるんだけじょ、夏のあっつい!っていうのは覚えてねえだよね!タケも覚えてないみたいだし、どんな感じなのかな?って」 ミユキはうーんと考え込む仕草を数秒し、 「なんとなくなんとなくだけ、覚えてる。とにかく不愉快な感じ。じりじり太陽の日差しが当たっているって分かるような暑さなの。その日は熱中症で救急搬送されたというニュースが出ることが多いな」 「へえ、大変な暑さじゃんかね。あの女子高生が心配だわせ」 ミユキの言葉にシホも俺も通りすがった女子高生をおもった。どうか、暑さで死んでしまいませんように。 「んだな、ミユキすごいな。よくその暑い記憶に耐えられんなぁ。尊敬」 「暑さの記憶なんて私の中ではそこまで重要ではないけ、大丈夫よ」 少しだけ、ミユキは苦笑いをした。
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