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 俺たちは、この田舎町で死んでしまった幽霊だ。田舎町からでることこそできないものの、ふらふらと徘徊することができるしミユキやシホもいる。そのためつまらない時間を過ごしているという感覚はあまりなかった。俺とシホはほぼ同時期に死に、ミユキと出会い幽霊生活を満喫している。夏に死んでしまったからか、俺とシホは夏の記憶が全くない。暑かった、という記憶も、誰と何をして遊んだかという記憶も。そして、なぜ死んでしまったのかという記憶も、持ち合わせていないのだ。だからこそこうやってのんべんたらりんと過ごせるんだろうが。  ある日、シホとミユキは町の中で一番大きな祭りがあると騒ぎだした。今日この日だけ屋台が出たり、人でにぎわって花火も打ち上げられるんだそうだ。普段、イベントがなくのんべんたらりんと生きている幽霊の俺たちにとっては田舎町であれどイベントというのは大事な刺激なのである。真っ昼間から、歌を歌ったり踊ったりするコーナーがあるというもんで、ぼーっとしていた俺はシホとミユキにずりずりと引きずられながら、イベント会場へ向かった。 「きゃー、本当ににぎやかだあ」 「イマドキのあんちゃんはかっこいいねぇ。ひゃあ!」 きまっている少年たちがよさこいを踊りだした。ここで披露するくらいだからアレンジを加えたものだろうか。興味の無い俺も、シホやミユキと離れる理由も特にないのでぼんやりと観客に紛れ眺めていた。  どれくらいだった辺りだったか。  もうありもしない脳みそがガンガンと痛みだしたのだ。脳みそを貫通されるような痛み。グラグラと視界が揺らいでしまい、思わず目をつむる。抜き取られていくような、脳みそにただただ痛みと違和感が襲ってくる。恐らく、死んでしまってから初めての体験かもしれない。痛みからじわじわと体が冷えていくのを感じる。その時初めて、シホとミユキの俺に対する声が聞こえた。
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