辻占(つじうら)

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翌日 夢は見なかった。お礼でも言おうと思っていたのに。 カウンターに辻占がふたつ置いてあるのに気づく。 「なんだ?」 手に取ってみる 「この香り・・・。」 カリっ 『待ち人来る』 間違いない、夢の中の辻占の味と香り。 カリっ 『時は満ち足り』 「待ち人?」 午前中、看板業者が来て看板を取り付ける 『いなりや』 カウンターの上につけられた小さな看板。 赤い板に黒字で『いなりや』と書いてある。 「いよいよね、せいちゃん。」 「後藤さん。」 「はい。お弁当。」 「ありがとうございます。」 弁当を冷蔵庫に入れようとして玄関を開けたら 「京田昭三さん。」 「えっ?!また?!」 俺はビックリして振り向いた。 「初めまして。」 「は、初めまして。」 「初めまして。横浜関帝廟の道士をしている者です。」 「神戸の関帝廟で道士をしている者です。これを玄関に。」 「これは?」 「加冠(かかん)に進禄(しんろく)2枚で対だ。建物の入り口に立ち、魔よけ・門番の役割を果たす『門神』だ。玄関の扉に貼って使う。要するに護符だ。」 手渡される。 「ありがとうございます。綺麗な女の人ですね。」 「ああ、書くのに苦労した。」 「え?手書き?」 「大帝が我らの元に降りられまして・・・。」 「そうそう。」 「お2人のおっしゃっている意味が良く分からないのですが。」 「だよねー。」 神戸の道士様はかしこまっているが、横浜はフランクだ。 「天上の創造神からお言葉をもらったんだよねー。神戸の道士様。」 「お・ま・えは!道士としての自覚が足らん!しゃんとしろ!」 「そういわれても~。そういう事で護符、玄関に貼らせて?」 「は、はい。」 壁に加冠、進禄を貼ると膝をつき、両手を組んで祈り始めた。 見守る事、数分。 「これでよし。」 「終わったよ~。確かにこの角度に玄関があるのはまずいもんね。」 「こら、不安がらせるな。」 「何かあったんですか?」 「邪気の通り道がね~。」 「こら、うるさいぞ。ペラペラと。辻占はありますか?」 「今日、看板できたので、明日から準備しようかと。」 「開店前でしたか。昭三さん、あなたの生年月日は?」 「1985年12月25日ですが・・・。」
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