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ヤクラムや傭兵団のことを、どこかで聞き齧ったらしい。タクラは、掴んでいたエマの髪を雑に放った。
「確かに、俺は……だが……」
ヤクラムの表情が歪む。
「エマに乱暴するな。俺は、大人しくする。俺は、もういい」
ヤクラムの言葉に、タクラと手下共が大いに笑った。
「本当に、どうしようもねぇ。この間抜け、のこのこと死にに出て来てよぅ。屠殺前の豚だって、もう少し頭使うぜ? 安心しろ。この女を、殺すようなことはしねぇよ」
タクラがいやらしく笑った。
「ただ、他の男へと迷った咎は躰に刷り込んでやらなきゃならねぇ」
タクラがエマの尻を揉んた。
「やめろぉぉっ」
「喚け喚け。さぁて、お前が死に逝くさまを見せながら可愛がるのも一興だけどよ。俺も、部下の手前、自重せにゃならん。あぁ、残念なことだ」
タクラが笑う。手下共も笑う。
「もう話すこともねぇだろう。こいつが二度と迷わねぇように、お前が死ぬさまをたっぷり見せてやりゃぁ、それで終わりだ」
「やめて。彼を殺さないで。私はなんでもするから」
「なんの寝言を言ってやがる」
タクラがエマの頬を張った。
「よせ。俺は、どうなってもいい。だが、エマは放してやってくれ。頼む」
「放してやってくれ? 頼む? おいおい。この女は、俺のもんだって言っただろうが。お前は殺すが、こいつを手放しはしねぇぜ? なにを勘違いしたんだかな」
タクラが嘲った。
その時。
エマを拘束していた手下の頭部が――宙で踊った。石畳に落ちて、無様に跳ねる。
「馬鹿馬鹿しい。なにをやってるんだ、ヤクラム」
そう言って、頭のない手下を剥がし、背後からエマを抱き寄せた者がいる。それは、鉄革の部分鎧で纏めた女戦士だった。冷めた目でタクラを蹴り転がす。彼女は、髪の一房を編んで青羽を挿し、直刀を握り締めている。
「な、ゾマニィ……」
ヤクラムが呆然と呟いた。
そう、現れた女戦士はゾマニィだった。今はもう存在していないが、二人は同じ傭兵団に所属していた。少し前に町なかで遇っていて、ヤクラムは――逃げ出していた。
「先程の反応は、あんまりだったからな。ひとこと言いたくてついてきてしまった」
ゾマニィが淡々と告げた。ゾマニィと顔を合わせたヤクラムは、慌てて背を丸め、道行く人に紛れたのだった。
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