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汚れた部屋と身体の後始末をして、トイレの洗面台で顔と手を洗い何食わぬ顔で会社へ戻る。会社には受注された商品を納期に間に合わせるため、社長と数人の社員が残業に励んでいた。
「おかえり! 有須! お疲れ!」
「行ってまいりました」
「もうこっちはいいから、先に帰っていいぞ」
「そうですか? すみません。お先に失礼します」
社長の言葉に甘え、退社して駅までトボトボ歩き電車に乗る。三つ目の駅で降りて、いつものコンビニへ寄った。
「いらっしゃいませー」
バイトの子が元気よく迎えてくれる。
「こちら温めますか?」
いつもニコニコと愛想のいい女の子。お釣りを受け取り、更に温めてもらったお弁当を手渡され、小さく頭を下げた。
「……ども」
「ありがとうございます。またお越しくださいませー!」
彼女の声は温かい。なんの変哲もないいつもの声掛け。それでも、俺には重た過ぎる。
古びたアパート。でも家賃の割には小汚くも、質素でもない。外見的には耐震性もそれなりにちゃんとしてると思われる普通の1DK。だけど暗い。照明が切れているわけではないけど、この時間だからか、それとも一人暮らし用のアパートだからか静かなもので、俺の部屋の窓も当然真っ暗。手に持った鍵は冷たく重い。
お弁当を机に置き、その手でテレビのリモコンを押した。
テレビから流れる音を聞きながら、コートと上着、ネクタイを外し、クローゼットのハンガーへ掛ける。テレビの前に戻って、スーツのまま若干冷めているお弁当を食べた。
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