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 どうせ家で食べるんだからコンビニでわざわざ温める必要もないんだけど、俺はいつも温めてもらってる。それは極度の猫舌だからって理由ではもちろんない。彼女の声掛けを重たいと感じながらも、温めてもらってるんだ。  流れている二時間もののサスペンスドラマを眺めながら弁当を食べ終え、犯人を誰だと明かす前にテレビの電源を切った。弁当の残骸を処理して風呂へ向かう。湯船にゆっくり浸かったら体も癒えるしリラックスもできるだろうけど、一人暮らしだとついつい面倒で、特に平日はほぼシャワーで済ませている。  それでもいくぶんサッパリして、風呂場を出た。  やっぱり部屋着はいい。落ち着くし。  髪を拭いたタオルを首から下げ、玄関に置きっぱなしだった鞄を開ける。  いつも会社に持っていってるビジネスバッグだ。財布に手帳、仕事のアイデアノートなんかが入ってる。開いた両面の内側に鞄と同サイズのチャック付きのポケットがある。三層になっていてゆったり荷物が入れられる機能性の高いビジネスバッグ。就職祝いに母さんから買ってもらった鞄だ。その鞄の右側の内ポケットを開ける。  ぶっとい四百八十枚入りのウエットティッシュと、大量のティッシュが入った小さめのコンビニの袋を幾重にも重ねてきつく縛ったゴミ。携帯用消臭除菌スプレーに、袋に入ったバイブ。  俺は生々しいティッシュ袋とバイブの入った袋を掴み、仕分け用ゴミ箱に向かった。燃えるゴミ用のゴミ箱にティッシュの詰まった袋を入れ、もう一つのゴミ箱を開ける。中には使用済みバイブがいくつも入ってる。そのゴミ箱に今日もまた、ボトッと同じ物を投げ落とした。  ウェットティッシュや、消臭スプレーとは別。ゴミ箱に入ってるこれは全部、俺が買ったものじゃない。頼みもしないのに持ってくるんだ。こうやって、捨てても捨ててもどんどん増える。頼んでなんかいないのに。  俺は表情をピクリとも動かさないまま、ゴミ箱を閉じた。  真野さんと再会したのは本当に偶然だった。 ……偶然だったのに。
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