8:Time to think

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「そうですね……正しい絞め方も知りませんし」 「野山で残り物を漁る様な真似をせずとも、毎日どこかで誰かが、君の分の食べ物を、安全に食べられる状態で用意している。そして、君の腹を満たす為に捧げられた命もある。だから『いただきます』『ごちそうさま』が大事なんだ。僕が言いたいのはその点だよ。あとは上原君で考えてくれ」  枸橘は一通り自説を述べ終えると、冷めかかっている唐揚げ定食を再び食べ始めた。相変わらずペースは遅いが、話を聞いた後だと、命に対する彼の哲学からくるものだろう、と顕子は思えた。  枸橘の言わんとしているところを、顕子は自分の合点がいくように想像してみる。  考えてみると、料理くらいはできてもその材料を全て自力で揃えたことは一度もない。家畜の屠殺はともかく、野菜の自家栽培も、魚釣りも未経験だ。店に行けば生肉も鮮魚もいつだって置いてあり、顕子はそれをただ『買う』だけで手に入れられるのだ。  大きな災害が起きれば『店頭から食料が消える』ということもあるが、備蓄食糧もあれば配給もいずれやってくる。  貧困で食べ物を買うお金がないケースもある。だが、生きるために法を破る覚悟をしたならば――本当の意味で、食料が手に入らないという状況は、現代日本の都市圏で起こることはほとんどないだろう。
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