8:Time to think

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 翻って、枸橘が経験したであろう野生動物の世界はどうだろう。  悠々自適な自給自足の暮らし、などというものとは程遠い。毎日が死と隣り合わせの生き地獄なのかもしれない。  少し外を出歩くだけでも殺されることだってある。それでも食べ物を求めて出ていかなければならない。道路で車に轢かれなくとも、森の中では草葉の陰から蛇が飛び出してくるかもしれないし、猛禽類が空から襲撃するかもしれない。まさしく喰うか喰われるかの弱肉強食。そんな中を飢餓状態で歩き回る恐ろしさは、顕子には想像を絶する世界だ。  自然は美しい、とは言うものの、それは無数の生死によって成り立つ世界。それぞれの生存をかけて闘争と逃避に明け暮れる終わりなき戦争。  殺し合わなければ生きていけない修羅の世界から、人類は文明の力によって脱出することができた。より多くの命を捧げものとすることで。
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