8:Time to think

8/20

838人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
 枸橘は森を捨てて、人類文明の中で生きていくことを選択した。自分の安定した生活のために、多数の犠牲を喰らうと自覚したうえでそう決めたのだ。  改めて、顕子は空になったばかりの丼ぶりを見つめた。さっき一息で平らげた親子丼は、米農家が丁寧に育てやお米や、全国から運ばれてくる野菜、雌鶏が産み落とした卵、そして今朝まで生きていたであろう一羽の鶏の命が使われている。  毎日の食事に捧げられる労力と命の重さ。そんな当たり前のことを、顕子はほとんど考えてこなかったのだと気づいた。 (いただきますと、ごちそうさま。大事だとはわかってたけど、『いきもの』が『食べ物』として私の前に並ぶまで、全然想像が及ばなかった)  それらの命の始まりから、収穫して彼女のもとへ運ばれてきただけの膨大な時間を、顕子は僅か数百円で10分もかけずに食べてしまったのだ。もったいない、なんだか申し訳ない……そう思わずにはいられなかった。  
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

838人が本棚に入れています
本棚に追加