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物言いたげな枸橘の視線に気づいて、あいは一旦箸を置いた。それからやや間を取ってから彼女自身のスタンスを述べる。
「諸行無常に万物流転。粗末な命とは言わないがね、あんまり生き死にを大袈裟にしちまうと、生きるのが苦しくなるもんさ」
「大袈裟……ですか」
「そうさ。元来一つの命が生き長らえるには、幾多の命を喰らい、襲い来る数多の敵を殺し続けるしかないんだよ。だからあんたもあたいも、いつどこで命を落としても御互い様って訳さ。今のような太平の世だろうがね。殺生の業と聞けば解るかい?」
「はい、大まかなイメージでですけど」
肉食の是非に関するニュースで世間が賑わっていることもあり、殺生の問題は顕子も最近よく耳にするようになった。とはいえ、彼女自身はあまり関心がなく、先程の枸橘の指摘があるまではほとんど深く考えてはいなかったが。
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