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不採用の理由は不愛想だから。あまりにもくだらない思い付きに自嘲する気すら起こらない。
社会人なんだから明るくはっきり喋れなきゃだめでしょ? 面接の度に告げられるこの言葉が、昔から内気な彼女には苦痛だった。
《普通の社会人》になれない私は、この社会に要らない人間なんだ。
そんな思考が頭を支配する。その後どうやって家の中に入ったのか思い出せない。気が付くと、顕子はベランダの外で夕日に染まる東京の景色を眺めていた。
田舎に帰った両親には申し訳ないけれど、この先の人生に敷かれたレールから脱線しかかっているこの状態をどうしていいのかわからない。
ぼうっとしていると、遠くの空に視線が吸い込まれる。
(このまま空に飛んでいけたら、地上の苦しみは消えるのかな……)
顕子は無意識に手すりへ体を預けていた。すっかり気力の抜けた上半身がベランダの外へ乗り出し、足がふっと浮く――
「だめっ!」
突然後ろからかけられた誰かの声で我に返ると、顕子はすでに自力では戻れなくなっていた。命の危険を察しても既に手遅れ、地上30メートルの中空に足首だけで引っかかる。
(やだ、死にたくない!)
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