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顕子が気絶から回復した時には、外はすっかり暗くなっていた。帰ってきたときの服のまま、自分の部屋のベッドに寝かされていた。
どうしてこの状態になっているのか、彼女はこんがらがったままの記憶を整理する。順を追って、先刻何が起こったのかを把握するのに数秒かかった。
(そっか、落ちかかったところを助けられたんだ)
命の恩人について思い出した時、顕子は急に鋭い痛みを自覚した。
「――っ、いたた……何かにこすったかな」
痛覚の発信源を確かめると、顕子の両足首には大きなガーゼが巻かれていた。細い線状の血が幾筋もにじんでいる。履いていたはずのストッキングは、丁寧にビニール袋に入れられていたが、もう使えないくらいズタズタに裂け、真っ赤に汚れていた。
死なずに済んだのだから、この程度の傷は大したことじゃない。そう思うことにして、顕子は手当をしてくれた人を探すためベッドから起き上がった。
幸い、ドアのすぐ向こうから聞き覚えのある声がする。どこかに電話をかけているようだ。
「……そう、そうなのよ。だから今夜はどうしても出られなくって。わたし抜きで回してもらえる? 常連さんには適当に説明して……」
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