6:Graceful Day

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 電卓をはじき、一円の間違いも無いよう慎重に確認してお札と小銭を返す。無事にやることが一つ住んで、顕子はようやくほっと一息付けた。  だが外商の仕事はここで終わりではない。むしろここからが本番だ。枸橘は今一度正座をし直し、さっそく次の話題を切り出す。 「以前ご相談頂いた花梨様の婚礼道具についてですが、結納金の115万円をご予算としていくつか見繕いました。お確かめください」  それに合わせて顕子はトランクから出した資料を一朗の前に並べる。一点当たり5桁は並ぶであろう高級品の数々、それらの画像をプレゼン用にまとめたものだ。 「まずこちらが伝統的な桐箪笥や布団、着物など。こちらのセットは最近のトレンドに合わせて家電や化粧一式を中心に。これはあくまで参考ですが、いずれにしてもお嬢様の新婚生活を想う心が大事です」 「迎えたことはもう三度もあるが、送り出す立場は初めてだからね。いざ近づいてみると何とも複雑な気分だよ」 「それが親心ですよ、と未婚の僕が口にしてもなんですが、両親としてしてやれる最後の世話ですからね。お気持ちは分かりますよ」 (車の中はだんまりだったのに、接客になるとどんどん言葉が出てくるなあ。変に媚びてる感じもないし、見習わなきゃ)     
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