6:Graceful Day

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 顕子はスムーズに会話を繋げていく枸橘のセールストークに感心する。商品の説明とお勧めはするが、決して押しつけがましくはなく、相手の満足を第一に考えている。 「こちらの柘植櫛と椿オイルのセットは社長も愛用しておりまして、毛繕いの時に使えば美しい艶を与えてくれます。定番の品でもありますし、美容効果も抜群です。アドバイザー一押しですよ」 「そうだね、これは是非検討させてもらおう」  一朗の関心を惹く話術は、顕子がこれまでの人生で使ってきた店のどの接客よりも高いレベルにある。本来、外商担当になれるのは接客経験を多く積んだプロフェッショナル。顕子のような未経験同然の新入社員が就ける仕事ではない。 (わたしはあくまでもアシスタント。でも、結局巫女も考えようによっては神様専属の接客担当だよね。その練習をしろってことなのかな)  一通りプレゼンを終えると、一朗の購入意欲はかなり高まったようだ。一度、折を見て百貨店に来ることになった。 「予定が決まったらサロンを予約しよう。他にいいものがあったら持ってきてくれないか」 「承知しました。では詳細はその時に」  と、ここで枸橘は顕子に目配せをする。今回の『とっておき』を紹介する合図だ。一度話がまとまったところでさらに『特別な逸品』を勧める。ちょっとしたスペシャル感を演出する小技だ。     
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