6:Graceful Day

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 ここで、一朗の前に置いたジュエリーケースを開く。光り輝く宝箱のように、とはいかないが、その中身の美しさに、一朗の視線が一瞬で吸い込まれた。 「ほう、これはなかなか」  わずかに身を乗り出して、顔をケースへ近づける。第一印象はまずまずのようだ。  中に入っているのは、ホタテ貝をあしらった純プラチナ製のネックレスだ。少しだけ開いた貝の隙間から大粒のガーネットがほんの少しだけ覗く。シンプルながらもガーネットを真珠のように見立てた上品なデザイン。 「ロンドン在住の呪具デザイナー、アマルシア氏によるネックレスです。通常のアクセサリーとしてはもちろん、水難に対する加護の術が施されています。二枚貝は貝合わせに通じて夫婦円満、ガーネットは柘榴石とも呼びますから、子宝もしくは安産祈願に転じます。婚礼には相応しい品かと存じます」  デザインや素材よりの詳細よりも、今回は縁起物としてアピールする。贈り物のお勧めには贈る側の気持ちに合わせることが一番重要だ。 「婚礼は洋装のご予定と伺いましたので、ドレスとともに着用して頂ければ生涯の思い出となりますし、落ち着いたデザインですので様々な装いにも合わせられます。高級な和装の代わりとして、このようなジュエリーを贈る方も増えているんですよ」 「なるほど、確かに着物自体も着る機会が減っているからね」     
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