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「ほら、肩を貸すからゆっくり立ち上がって。申し訳ありません、最後までお見苦しいところを」
「いやいや、気に病むことはないよ。手がかかる子ほど大きく育つものだ。上原さんも頑張って」
「……ありがとうございます」
枸橘に支えられながら、顕子はしびれる足を引きずるようにゆっくり立ち上がった。恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
一朗に玄関まで見送られながら、顕子と枸橘は摂津家を後にした。社用車に乗り込むと早速枸橘からダメ出しを受ける。
「お客様の前で不手際を見せない、ミスをしても慌てるそぶりをしない。基本的な部分がなってないぞ」
「うぅ……はい、すみません」
「それから鍵の取り扱いは確実に。紛失は探し出すのに手間がかかるから絶対にやめてくれ」
「気を付けます。申し訳ありません」
「あとは、失敗は誰にでも起こりうる。もちろん僕でもね。そのうえで最終的に挽回することが最重要だ」
枸橘はホルダーのペットボトルを手に取り、ごくごくとお茶を一気に飲み干した。それから最後にもう一言念を押す。
「僕たちの仕事は途中で失敗をしないことじゃない。何が起こっても、頭を下げて、周りの助けを借りて、お客様に最良のものを届けることだ。そこを見誤らないように」
「……はい」
「それじゃすぐ帰るぞ」
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