837人が本棚に入れています
本棚に追加
とはいえ、ながら見でも全く問題ないので、顕子はテレビのBGMを聞きながら短いようで長い3分間を待つことにした。
映画『サイコ』のヒステリックなストリングスも、湯気が立つカップ麺が相手だとパロディCMにしかならないだろう。そんなことをぼんやり考えているうちに、顕子は疲れているせいか、キッチンで立ったままぼうっとし始める。
テレビの方では、撮影者が身の危険を感じて逃げ始めたようだ。慌てるような声が録音されている。
『これ狙われてる? 狙われてるの? ……来た! やばいやばいやばい!』
撮影者は走り出したのか、ガサガサというノイズと速い靴音ががつがつと響く。
その後ろを一匹の白い犬が歩いていた。外灯のない住宅街の中、撮影者の男を執拗に追い回している。襲い掛かるつもりなのか、それともただついていくだけなのかは定かではない。走って追いつくでもなく、吠えることもせず、一定の距離を置いて静かに男を追いかけている。
男は追っ手を撒こうとして路地を何度も曲がるが、犬の方はその匂いと足音で暗闇の中でもその存在を見失わない。
やがて男の方の体力が尽き、外灯の支柱にもたれて息も絶え絶えになった。そこへ間もなく、追ってきた犬が現れた。
その犬が外灯の光に姿をさらした時、男は恐怖のあまりその身が凍り付いた。
最初のコメントを投稿しよう!