7:We Are Confidenceman

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 喘ぐ息の中叫び声を上げようとするが、ただ口をぱくぱくとするだけ。  ――白い犬は、その身体を腐らせていた。  きれいなベージュだったであろう毛皮は汚い泥に塗れ、一度剥がされたように背中から大きく捲れあがっていた。肉がむき出しになった部分には血が滲み、腐敗を嗅ぎつけた蛆と羽虫がたかっている。   右前足が途中からなくなっており、反対側の左前足は強く引きずったために指先から骨が見えていた。異臭を放つ臓物が地面に血の跡を点々と落としている。  頭部は左側が殴られたように大きく陥没していた。左耳は潰れてひしゃげ、壊れた眼窩から目玉が外れかかっている。  犬は男の傍に近づくと突然倒れ込み、苦しそうにその場で悶えたかと思うと、口から血の混じったものを激しく嘔吐する。腹の裂け目から見える内臓がびくびくと動く度に、大量の吐しゃ物が辺りにまき散らされた。  腰が抜けてしまった男の足に、べちゃりと吐血が飛び散った。 「ひっ、ひえっ!?」  男は気の抜けた奇声を上げると、どたどたと必死に手足を動かして後ずさる。それからヒビの入ったスマートフォンを震える手で拾い、恐怖にひきつった顔のままその場から逃げ去った。     
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