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五月に入ると、百貨店の業務は一気に慌ただしさを増す。母の日、父の日、中元、盆、敬老の日……九月までの四ヶ月間次々に入れ替わる商機に備えて、企画から商品の確保、そしてなにより殺到する注文をひとつ残らず捌き切らなければならないのだ。
顕子の配属先である外商部は、八階の高級品フロアの一角に設けられている。所属する約二十名それぞれのデスクが用意されており、広い室内は角部屋二面の窓によって実に開放的だ。
百貨店の事務室で窓が設けられているのは外商部のみ。他ののフロアでは見晴らしのいいカフェなどを入れている。それだけここが他の部署とは扱いが違うということだ。
在籍者のほとんどは顧客廻りと店内応対に出払っており、残ったメンバーは顧客または取引先とずっと電話をしている。
「――はい、はい……遠野へ夏野菜の詰め合わせですね。毎年ありがとうございます。近日中に承りが始まるので、それ以降に改めて手配いたします……」
窓際の席で電話片手にメモを取っているのはアナグマ。今の時期は中元の内覧会の準備と、それに関する問い合わせでとにかく忙しい。
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