7:We Are Confidenceman

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 洋菓子、和菓子、パンに総菜、野菜と精肉……ここで扱っているものの大半が、妖怪たちの仕事によって作られた商品だ。妖怪たちにとっても、そうとは知らずに買いに来る人間たちにとっても、種族を問わず満足させる一級品が取り揃えられている。    稲荷百貨店の酒売場は日本酒に力を入れており、かなり広めのスペースに日本各地の蔵元から仕入れた、ピンキリ多種多様な瓶がずらりと並んでいた。CMで見るようなメジャーな銘柄はもちろん、モダンなデザインラベルの変わり種、桐箱入りの上等なものまで、数えれば二百、いや三百種くらいはあるかもしれない。  木調の棚の最上段には、一升瓶で五万円もするプレミア品や、祝いの席で使うような樽酒が飾られている。  誰かが朝食でも頼んだのだろうか、すぐ隣にある鉄板焼きのブースからじゅうじゅうと水分が躍る音と、香ばしいマヨネーズの焦げるにおいが酒売り場に漂ってくる。ちょうど小腹がすいた顕子にはちょっとした嫌がらせにも思えた。  反射的に出てきたよだれを飲み込みつつ、顕子は酒売場の主任に声をかけた。 「おはようございます、頒布会の申込書持ってきました」 「毎度どうも。……うーん、今年は出足が悪いなあ」  化け鼠の主任、酔心は顕子から書類フォルダを受け取り、受注件数の低さに落胆する。『心眼』を使わずに人間に化けた姿を見れば、彼は食品部共通の白い制服を着たやや大柄な中年男性に映っただろう。     
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