7:We Are Confidenceman

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 だが、今顕子の目の前にいるのはとてつもなく巨大な、しかも顕子の背丈よりも一回り大きな鼠だ。猫や狐ならばまだ合点がいくが、鼠が自分よりも大きくなるのには顕子はまだ違和感をぬぐえない。  顕子が聞いたところによると、彼はもともと酒蔵に住み着いたドブネズミだったのだが、ある時うち捨てられていた木桶を齧ったのだそうだ。その木桶は五十年近く酒造りに使われ、付喪神になる程に霊力を溜めこんでいた。木桶の付喪神に『憑かれる』ような格好で、酔心は一際巨大な化け鼠になってしまったというわけだ。  老眼なのか、つぶらな黒い眼を書類に近づけたり話したりしている様子は、大きさが逆だったらまだユーモラスだったかもしれない。これではまるでトトロとサツキの初遭遇のようだ。 「去年も売り残しが出たからなあー、今年の持ち直しは期待薄かもしれない」 「そんなに悪いんですか? 今回の売れ行き」 「まだ三割にも満たないし、スタートではこれまで以上に悪いね。ここで伸びないと決算に響くからなあ……」  酔心は長いひげをいじりながら渋い顔をする。彼の悩みの種については顕子も予想はついた。     
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