7:We Are Confidenceman

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 酒売場に限らず、ここ数年の稲荷百貨店の売り上げは伸び悩んでいる。日本全体の不景気は稲荷百貨店とて例外ではなく、全売上の四割を占める富裕層が買い控えればその影響は計り知れない。特に酒などの嗜好品は真っ先に節約の対象になってしまう。いくら有名な八塩折之酒といえど、やはり酒は酒。なければないでさして困るほどのものではないのだ。 「……一応訊いてみるけど、上原さん興味ありません? 従業員割引も効きますよ」 「無理です。さすがに二万はちょっと」 「ですよね。簡単に表に出せるものでもないしなあ」  頼むように勧めてくる酔心に、顕子はぴしゃりと断った。そうしたくなる気持ちもわかるが、従業員側は購買力を持ち合わせていないのだから。  しかし、扱っている商品への興味はある。商品を案内するのに中身を知らないのでは意図せぬ嘘のようなものだ。何しろ伝説の酒なのだ、どんな味なのか、そして効果はいかほどのものか、本音で言えば確かめずにはいられない。 「実際どういうものなんですか。イメージではとにかくすごい効果がありそうぐらいにしか」 「今どきはゲームかアニメに出て来る道具でしょう。でも、何事も自分の手で、目で確かめるのが一番。急ぎでなければ少し試飲してみますか」 「いえ、今は遠慮します。まだ午前中ですし、やることもあるんで……呑んでみたいのはやまやまですけど」  さすがに朝から酔いが回った状態で仕事をするわけにはいかないので、顕子は申し出を断った。即答に酔心は少しだけ残念そうだ。     
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