7:We Are Confidenceman

15/18
838人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
「長いこと病気をして、医者からも止められてたんですけどね、無くなるって聞くと寂しいもんだから。開けないけど手元に取っておくつもりだったのかしら? なにせ肝臓だったものだから、この二年一滴も飲めなくて。で、そのまま……ね。とにかく、四十九日だからやり残したことがあるとよくないでしょう。お供え物にしてあげようと思うのよ」 「それは確かに大事なことですよね。……少々お待ちください」  顕子は背後のリザーブ棚の中を探す。予約票の金額が六桁の超高級なボトルに思わず目が行ってしまうが、今はそれどころではない。値段に関わらず、商品を求めるお客様の想いはそれぞれが貴賤のない大事なものだ。  件の瓶は時間が経ったせいか、他の商品の後ろに隠れてうっすら埃をかぶっていた。お酒に疎い顕子でも知っているような、ありふれた国産の定番ウィスキー。ここ数年のハイボール人気によって生産休止が発表された銘柄の一つでもある。供給が途切れた今、どこの店にも在庫はもう僅かしか残っていないはずだ。 (四十九日かあ……あの世に行くか地獄に落ちるかが決まる日、だったよね。最後に自分の好きなものを供えてもらったら、安心して成仏できるのかな)  依頼主はずっと飲めなかったお酒に、病気を治す希望を託していたのかもしれない。いつか治ったら、最初の一杯をこのウィスキーにしよう。そう決めて日々を過ごしていたのかもしれない。     
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!