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惜しくもその願いは叶わず、病に打ち克つことはできなかった。さぞかし残念だったに違いない。顕子は瓶を手にとって、手持ちのハンカチでほこりを払ってやる。
待っていた女性に見せると、やっぱり、といった様子で顔をほころばせた。
「こちらの商品ですね……よく飲まれてたんですか?」
「ええ、ええ……本当に久しぶり。昔は一晩で一本あけるなんてしょっちゅうで。供えてあげたらあの人もきっと喜ぶわ――あらやだ、花粉症かしら」
故人の思い出を口にする女性の目頭に、ほんのわずかな涙が滲む。顕子はなんと返せばよいのかわからず、ただ黙って微笑みながらそばに控えていた。
「この齢になるとねえ……わかるでしょ? ああそうそう、思い出したわ。一緒に手土産も買わなくっちゃ」
と、ここで女性はバッグからメモ書きを取り出す。法事の参列者に配るものをリストアップしているようだ。
「あの人の飲み仲間なものだから皆さんお酒好きで、日本酒のちょっといいものを三十本ばかり包んでいただきたいのですけど――」
「三十本ほど……ですか。えっと……ちょっと、お待ちください……」
思わぬところで出てきた大口に、今度こそ顕子はお手上げだ。こればかりは売り場スタッフでないと対応できない。
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