2:さあ冒険だ

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2:さあ冒険だ

「――シュレディンガーの猫という例えばなしがあります。箱の中にいる猫が生きているか死んでいるか、蓋を開けて確認するまでは両方の可能性が残されているということです――理系の皆さんには厳しい指摘を受けるでしょうが――私が言いたいのは、自分の目で確かめるまでは皆さんにはあらゆる可能性が存在しているのです。今後大きな難題にぶつかったとき、最初から諦めるのではなく、まず行動を起こしてみて、成功か失敗かを自分で確かめてみてください」  大学の卒業式。学長のスピーチが終わると、講堂に集まった学生や参列者から大きな拍手が起こった。  そんな中、顕子は上の空でスピーチの趣旨とは全く別のことを考えていた。  シュレディンガーの猫から顕子が連想したのは、マンションの隣に住むあの化け猫とのことだった。  あの日からすでに二週間経過していたが、その間飛鳥とは一度も遭遇しなかった。顕子は就職活動でほとんど出払っていたし、タイミングがなかったと言えばそれまでだが、隣人のとんでもない秘密を知ってしまったというのに何の音沙汰も無いのはかえって不気味に思えた。     
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