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3:わたしとどうぶつと。
「台車通りまーす!」
「ひゃっ!?」
魚の切り身パックを大量に積んだワゴンを、鮮魚店の制服を着た化け狐が運んでいた。すれ違いざまに顕子の手にふわりとした何かが触れ、顕子は思わず声を上げてしまった。
忙しそうな狐は顕子には一切構わず、すぐそばの出入り口からデパ地下の売り場へ出ていった。
(い、今当たったのってしっぽだよね……?)
そんなびっくりも、台車とぎりぎりですれ違える程度の狭い通路で一人待たされている顕子にはどうすることもできない。不安で落ち着かないままじっと鶴丸が戻るのを待つしかなかった。
顕子が想像していたよりも、百貨店のバックヤードはずっと薄暗く、狭い。
壁はコンクリートがむき出しで黒くくすみ、照明も最小限の蛍光灯。使い込まれた台車やコンテナ、未開封の段ボール箱がひしめき合っている。掲示事項や注意喚起の張り紙があちこちに張られ、ほんの少し魚の生臭い匂いもする。お世辞にも快適とは言いづらい空間だ。
建物の面積の八割を占める売り場、それを動かすための機能が詰め込まれているのだ。表側とは違ってお客を招き入れる余地は全くない。
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