相乗りエレベーター

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相乗りエレベーター

 オフィスビルのエレベーター。私は一階から乗り込むのだけれど。毎朝四階から乗ってくる人がいる。  乗ってすぐにボタンを押すので、その人が毎日九階へ向かうことは知っているけれど、五階で降りる私とは、ほんの一時エレベーターで乗り合わせるだけの間柄。もちろん名前もどこの誰かも知らない人。  でも、知らないなりに顔は判るようになった、程度の関わり方をしている私ですら、わざわざ良くも悪くもその人と接触しようとは思わないのに、世の中には、嫌がらせが好きでたまらない人間というのがいるのだ。  今朝その『どうしようもない人間』がエレベーターに乗り合わせた。  同じ社の同僚ではあるけれどなるべく関わり合いにはなりたくない人で、いつもはもっと遅い時刻に出社してくるのに、今朝は何の気まぐれか、私の出社と同じ時刻に姿を現した。  一応挨拶をして同じエレベーターに乗り込む。特に何かを言われる訳ではないけれど空気が思い。そこへ、四階から乗り込むいつもの人が乗ってきた。  同僚にとっては完全に見ず知らずの相手。関わる理由なんて何一つない。なのにエレベーターを降りる寸前で、同僚は六階から八階までの、三階分のボタンを残らず押した。  見ず知らずの相手にどうしてそんな嫌がらせをするのか。  呆気にとられすぎて注意もできずにいる私を尻目に、同僚はさっさとエレベーターを降りていく。その態度が腹立たしいやら乗り合わせている人に申し訳ないやら、気持ちが色々ごちゃ混ぜになって、私は乗り合わせ相手にぺこんと頭を下げてエレベーターを降りた。  その件からおよそ一月が経った頃、まったく同じ顔触れで私達三人はエレベーターに乗り合わせた。
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