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 近くの幼稚園児がなにやら童謡を歌っていた。  その歌声がなんだか楽しそうで、私はそっと耳を澄ませていたけれど、ある曲を聴いた途端に気持ちが悪くなってしまった。  それが一度ならばただの偶然だろう。  でも二度三度、何度も続けばなかなか偶然と割り切るのは難しくなってしまう。私の場合がまさしくそうで、聞いているうちにどんどん気持ち悪くなってしまうものだから、その歌が聞こえてくる時にはなんとなく耳栓をするようになってしまっていた。  歌に何か謂われがあるのだろうかと、軽い好奇心で検索してみる。便利な世の中になったものだ。  その曲は子ども時代に誰でも一度は聞いたことがある曲だろう。私も――孫のいるような世代の私も、聞いた覚えがあるのだから。  でも、そんな古い歌だから、何か噂でもと思ったけれど、探すのはやはり難しい。それでも、その歌に何か悪い噂があるかというと、そんなものは引っかかりもしなかった。  ただの生理的嫌悪感、それだけなのだろうか。  これを証明するというか、確認するのは当たり前ではあるが難しく、私は自分で説明するのも難しいだろう。    ある日、幼稚園に通う孫がにこにこしながらうちに来て、私に歌を披露するという。しかしその歌は、例の曲だった。  私は耳栓をすることもできず、奥歯をぐっと噛みしめ堪えて孫の歌声を聞く。  と、唐突に何かが頭にひらめいた。  昔、昔、その歌は私も大好きだったのだ。  けれど、その歌を歌って遊んでいる時にへんな男がやってきて、私の首を――  ――それは壮絶な前世の記憶。  このことを知っているのはきっと私だけ。  孫が不思議そうに私を見たけれど、きっと気のせいだ。  何処か昏い、嫌な思い出を引きずり出されそうな笑みを浮かべていたのも、きっと、気のせい……。
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