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「……勝手に殺さないでくれ」
ヤツハは淡い吐息と共につぶやいた。
私は腕の中にいる彼を見る。
ヤツハは薄く目を開いて、私を見つめている。
「まったく君は……。俺が死ぬなんて、お社様だって言っていなかっただろう」
「ヤツハ!」
私は彼にでたらめに抱きついた。
彼は苦しそうに息をもらしつつ私の耳元で穏やかに囁く。
「君はバカな女の子だ」
彼は私に言った。
「うん」
「お社様に直訴したんだね。そのせいで俺はまだ人間の身体のままだ」
「うん」
「君の人生を見守るのがこれからの俺の役目だって。お社様にそう諭されたよ」
「じゃあこれからも一緒にいられるの?」
「ああ」
私の問いにヤツハが優しくうなずき、そして私の肩を抱いた。
「だから、ユキ。もう泣かないで」
「え?」
私は今更になって気づいた。
私の頬をいつの間にか熱を帯びた何かが伝い、その温もりの正体に私は少なからず驚かされた。
涙? 私は涙を流しているの?
「ユキが泣くのは好きじゃない」
ヤツハが私の涙を指ですくう。
その時。
季節外れの雪が降り注いだ。
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