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雪は、見たくない
それは両親の死を思い出すから。
冷たくなった父の手は真っ白になっていて、私の体温を吸い込んだから。
母の手元には、私の誕生日プレゼントのマフラーが大事そうに抱えられていたから。
二人の遺体を前にして、私は何も言えなかった。
涙は、出なかった。
悲しくて、胸が苦して、それでも涙は出なかった。理由は分からない。
だけど、多分両親を失った時に私は気付いたのだ。
きっともう、私は涙を流すことはできないのだろうと。
一月九日、火曜日。
中学最後の年となる2018年がやってきた。
私は通学路を、ひたひたと歩いていく。
周りには誰もいない、私の家から学校までの道のりは比較的に人通りも少なく、それでいて子供のいる民家も少ない。
必然的に町に一つしかない学校へ向かう中学生など少ないので、この道をこの時間で通るのはやはり私ぐらいなものだろうと、心の中で囁いた。
かじかむ手を、ポケットに入れる。
このまま学校をサボってしまおうか。そのような考えも浮かび上がったが、やめた。
私は道を踏みしめる。
途中、いつもの神社の階段を通り過ぎた。
誰も参拝に来ない、誰からも忘れ去られた、孤独な社。
霜が降りて、滑らかに固まった階段は、誰が手入れする訳でもなく、苔だらけの緑だ。
そこに見慣れぬ茶を、私は見た。
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