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それからの私は正常に成長していった。
これといって『変身』の影響を受けることもなく、ただ平和に良く生きていた。
唯一気にかかったことと言えば、母が私のことを「人が変わった」と形容していたことである。趣味も趣向も、それこそ好きな食べ物から本まで変わったと驚きの表情を浮かべていた。
そりゃそうだろう。私は思った。少年の身に未だ青二才とはいえ二十過ぎの男の精神が入り込んだのだ。
今の私から想像するに、前の私も少年期より変化のない無垢な育ちを経るような人間性ではない。むしろこれが正常である。
僅かなひっかかりも時間とともに胃に吸収された食べ物のように消化されていった。
やがて年数にして十年以上の月日が経った。未だに先の記憶を思い出すことはなかった。前の人生と同じ行動をしているのか、そんな自信は当然なく、またなぞる様な退屈な生き方もしたくなかった。
母は良い人だった。
作る食事は大変味が良くて、父は自慢げに部下を招いては食べさせていた。
一般家庭で得られる最低以上の生活は満足感を与えてくれた。それからの私は順調に進学し、晴れて大学生となった。
なにせ対人や未来の記憶を抜いては情報が残っていたのだから、勉強という知識分野においては周囲と比べ有利であり、そのぶん余裕もあった。とはいえ、そのまま怠惰であっても仕方ないので、勤勉であろうと努力はした。
結果、第一志望に合格を果たした。
前の私が同じ大学にいたのかどうか、そもそも大学生だったのか、そんなことはもう既にどうでもよくなっていた。あと少しで私は前の自分を追い越す年齢になる。
この大学を卒業すればもう完全に新しい私になるのだ。
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