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そう思うと僅かに胸が弾んだ。
やはり、この人生はやり直しであるという意識が精神のどこかで残っていた。
そのせいでありとあらゆる行事ごとに「またか」と、覚えてもいないのに身体が反応してしまうがごとく、既視感を覚えてしまっていたのだ。
未来を迎えることを嬉しく思える私は幸福であった。
一年と少しが経ち、二十二歳の誕生日を迎え、真の意味での新人生を手に入れられるとにわかに浮かれていた。
そんな時分であった。
大学の講堂でたまたま隣の席になった女性を見て、私はさらなる幸福と毟り取られるような不安を得た。
なぜだろうか、彼女を見ていると涙がでそうになって、強く親指で目頭を押さえなければならなくなる。
彼女の名前はFといった。
黒髪が腰にまで届きそうかといった長髪がよく似合う大和なでしこであり、仕草はいちいちが愛らしい。上品なのだ。その後に誘った昼食でFはラーメンがいいというので、近くの店へと連れて行った。
Fはラーメンを食べる際には僅かな音も立てることなく、どのようにして食べているのかわからないほど綺麗に胃へと運ぶ。
ラーメンは音を立てるものだと勝手に決めつけていた私は、もしFがただの男の友人であったのなら厳しくそれを否定し、「もっと啜ってくえ」とでも文句を吐いていたかもしれないが、今では「ラーメンは優雅に食うもの」とこれまた勝手に決めつけていた。
いつの間にかFが私の基準になっていた。
それから講義ではよく隣になることがあった。
さりげなく覗き見る私の視線にFは気が付かない。
ペットボトルの水を飲むだけで、それが通る喉元の上下が耽美であった。
私はこの女性へ恋に落ちていた。
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