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Fとは初めての気がしなかった。
どうにかして振り向かせたい。そう思って色々手を尽くしてみるがなかなかうまくいかない。なぜだろうか、Fは蝶のようにひらりとこちらの手をかわしていくのである。
しかし私にあるのはこの素手のみで、虫取り網のような効率的な方法など皆無であった。
だから酒に頼ることになった。
情けない手だと思っていた。しかしどうしてもFをこの手に収めたかった。もやはこの感情は執着といった生易しい言葉では収集がつかないほどに肥大化していた。いつからか、彼女を手に入れた男が他にあったら殺してやろうとまで思っていたのだ。
それほどまでに好きなのだから。
その意地らしくも溶鉱炉でどろどろに崩れた鉄のような身勝手な思いを免罪符にして、私はどうにかして家に呼んだFを酒で酔わせ、そして手に入れた。
これで私の人生は一種完成したかに思われた。
彼女には男があった。
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