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やばい、と私は思った。これは本格的にやばいやつだ。どうにかしなければ。でも、どうすればいい?
先輩が曲がり角を曲がった。まっすぐに駅に向かう様子はなかった。
ーーお願い、逃げて、先輩……!
男がタイミングを定めて前に出た。ナイフを両手に握りしめている。素早い動きだった。
「危ないっ!」
「え?」
気づけば私は、先輩を思いっきり突き飛ばしていた。放心していた先輩は簡単によろめき、後ろに倒れた。ゴン、と何かに当たったような音がした。先輩、と声をあげようとした、その瞬間。
ずぶり。
腹部に激痛が走った。ぬるりと生暖かい感触。血だ。私の血が、ひたひたと地面に落ちる。
「な、なんだお前……」
突然出てきた私を見て、男は驚愕した。そしてナイフを抜くことも忘れて、大急ぎで逃げていった。
私はがくりと膝を折りうずくまった。痛い。ものすごく痛い。誰かの叫び声がする。救急車を呼んでいるようだ。意識が遠のいていく。うっすら目を開けると、霞む視界に先輩が気絶しているのが見える。
よかった。私は思った。刺されたのが先輩じゃなくて、よかった。
なんの取り柄もない私でも、誰かを守ることができたんだ。
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