第1章

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傷は思った以上に深く、体の重要な部分までざっくり切れてしまっていたようで、手術の末、私は1ヶ月間、車椅子で入院生活をすることになった。 入院中、何人かが部屋にやってきた。警察が来て事情聴取をされた。先輩をストーキングしていたこと以外は、ありのままを伝えた。ナイフの指紋から、犯人は間もなく捕まったらしい。何度も逮捕歴があると聞いて、私は背筋が寒くなった。 そのあと担任の先生が来て、連絡事項を伝えていった。ほんとうに必要なことだけを簡潔に話し、あとは取り立てて会話が弾むこともなく、「それじゃあお大事に」と言って病室を出て行った。べつにわざわざ来てもらわなくてよかったけど、彼らに言っておくべきことがあった。 「私が刺されたことは、他の人には言わないでください。榊原先輩にも」 後悔はなかった。むしろ運動音痴な私が、よくもあんなに俊敏な動きができたものだと、自分に感心しているくらいだ。でも、誰よりも、先輩には知られたくなかった。私は恩を売りたかったわけじゃないし、なぜあの場にいたのかを説明すれば、ストーキングしていたことまでばれてしまう。私は今までどおり、こっそり先輩を眺めているだけでよかった。先輩に、気持ち悪いなんて思われたくはなかった。
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