第1章

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車椅子でなかなか自由に動けないことを除けば、入院生活はなかなか快適だった。静かで、外のじめじめした空気とは無縁で、必要以上に人と接しなくていい。私は本を読んだり、窓の外を眺めてぼんやりしながら過ごしていた。空には雲が多く、なにか見えない力に押し出されるようにして窓の外を流れていく。その隙間から、きらりと光るように晴れ間が見える。夏がもうすぐそこまで迫ってきているのを感じる。 夕方、横になって本を読みながらうとうとしていたときだった。 コンコン、とドアがノックされ、問診かな、と思いながら返事をする。ドアが開いて、私は目を見開く。 「こんにちは、山村さん」 と、榊原先輩は言った。 夢でも見ているのか、と疑った。だって、こんなことがあるはずない。先輩が、ここにいるなんて。 私はばかみたいに口をパクパクして先輩を凝視した。どれだけ見つめても先輩は先輩だった。どこにいても光をまとって輝いている、私の憧れの先輩だった。 「な、なんで、ここに……?」 やっと言葉を発すると、先輩は当たり前のように言った。 「なんでって、あなたに会いに来たのよ」 そうか、誰かが先輩に教えたのだ。私がここにいることを。警察と担任を口止めするだけじゃダメだったらしい。噂はどこから漏れるかわかったもんじゃない。
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